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空室対策としてペット可住宅を積極的に取り組みたいが…

実際のトラブル事例から大家さんがゴミ部屋や住民トラブルを未然に防ぐ方法を考える

山本 葉子山本 葉子

2020/02/27

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犬や猫などペットを飼育される方が増えています。しかし、ペットと暮らせるマンションやアパートの供給が追いついていないのが今の状態です。その一方で、賃貸住宅の空き室は増えており、だからこそ空室対策としてペット可住宅を積極的に取り組んでいけば、空室は減少し、ペットがきちんと飼育できる環境も整い、双方にとってよいはずなのですが……。

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今回は実際のトラブル事例から、賃貸運営管理側(大家さんや不動産会社さん)が被害を回避する方法を考えてみたいと思います。

ターミナル駅から徒歩数分の好立地。ただ、大通りに面していて外からの音が少しうるさいのが少々難点ですが、隣にはコンビニがあって、目の前の通りを一本入ればご飯屋さんや雑貨屋さんなども豊富で周辺環境も整っています。建物自体の築年数はそこそこ経ってはいますが、週1回の巡回管理が行われ、きれいに管理されていました。

そんなお部屋に住む若い男性と思われる方から「うちの猫が急に凶暴になって困っている。どうしたら治るか?」と、相談の電話がかかってきました。これだけの言葉を発するのにかなりの時間がかかり、かつ何だか怒っているような声。相談の電話を受けた際には短い質問を挟みながら、状況を聞いていきます。この方の場合も、質問をしながら状況を把握していきました。

その話によると、同居している彼女も家に戻れないくらい猫からの攻撃があるとのことでした。

「いつからですか?」

「1ヶ月かそこら前から」

「オスですかメスですか?」

「メス」

「不妊手術はしていますか?」

「え、なにそれ?」

季節は春です。猫たちの恋のシーズン。発情とともに行動が変わる時期で、攻撃性が出ることもあります。なので、まずそれを伝えました。

「どうしたら治んの?」

「まずは手術をした方がいいと思います」

「そしたらおとなしくなる?」

「その可能性はあります」

「他に原因があったら?」

「まずは原因と思われることを一つずつ解決していって……」

「病院かぁ、行ったことないんだよね。お金かかるよねー?」

困っているのは確かなのですが、問題を解決したいのかしたくないのか、なかなか行動に移りそうにありません。同じ話を嫌みに聞こえないように(大事なテクニックです!)言い方を変えたり例え話を出したりしながら数回繰り返し、「原因かもしれないことを、まず一つ取り除きましょうよ」と説得してみましたが、よい返事が返ってきません。

埒があかないと思いながらあきらめ気味に「私どもの団体の病院で、あまり高くない避妊手術が出来ます。このまま生活に支障が出続けると、費用がかさみませんか?」と言った途端に「そっか……。うん、そうかも!」とのってきてくれました。 

ビールの空き缶で埋め尽くされた部屋の中

すぐに伺う約束をして、猫用の捕獲器を持ってマンションへ。部屋の中に仕掛けをして一旦戻って、猫が入った連絡が来次第車で迎えに行くつもりでした。マンションのエントランスで出迎えてくれた男性は想像より若くはなく、話し方は電話より少しは好感が持てる感じで、ただ何故か私たちを部屋の入れるのをずいぶんためらいました。

それでもなんとか部屋に入れてもらうと、ビックリ。ビール缶の壁。右にも左にも、天井まで山になっていて床が見えない状態です。もちろん、空き缶を洗ってなどないのでしょう、アルコール飲料のすえた臭いが充満していて、「マスクを持ってくるんだった」と後悔をしました。

とにかく、「不妊去勢手術のための捕獲」が目的です。なんとか捕獲器を設置し、取り扱い方法をレクチャーして戻りました。

その日の夜に連絡が来て、翌日朝一で再訪。捕獲器にかかっていたのはとても小柄でスレンダーな可愛い猫でした。

確かに威嚇行動がありますが、捕獲器にかかって知らない人間もそばに来て、リラックスするはずもありません。毛ヅヤもよく目もキラキラしており、体調には問題なさそうでしたので手術は十分可能と思いました。猫の安全(と、人の安全)を確保できたので、少し立ち入ったことをその男性に聞きます。

「手術後猫をお部屋に戻すわけですが、片付けませんか?」

「あ、んーんと、そう……だなー」

渋々ではありましたが同意を取り付けて、ついでに猫を怖がって避難していた彼女の方にも手伝ってもらい、何十袋ものゴミを出しました。幸いゴミをため始めてからあまり時間は経っていなかったようで、片付けてみると床や壁は「ちゃんと拭けば落ちる」程度の汚れでした。

一方、猫の手術も無事終了。やっぱり発情期が原因だったようで、猫とは以前のように穏やかに暮らしていると連絡が来ました。

とはいえ、45リットルの袋の山を大人3人でゴミ置き場へ往復する姿が管理人に見咎められて、そこに通りかかった同じ階の住人から「おたくのベランダが臭うんだよね」と苦情も入ったとのことです。それでも「今は大丈夫なので」と、飼い主さんが言えるような状態に戻せたことで、この件は無事に収拾がついたとのことでした。

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「ペット可賃貸住宅」だからこそできるコミュニケーション

さて、自分がこのような物件のオーナーだったと思うと、正直、怖いですね。仮にあのまま放置されていたとしたら、“ゴミ部屋”になっていたことでしょう。

ペット可に限らずですが、賃貸物件の室内が「適正に(キレイに)使われているかどうか」を日常的に把握するのは困難です。共用部分と違って各部屋に監視カメラはもちろんつけられないですし、特段の用もないのに室内を見せてくださいとも言えません。

先のケースの男性住人は、「(人にとっての)猫の問題行動」に困って保護団体に連絡してきたわけですが、実はペットの飼育などの相談を活用して住人の把握・部屋の使用状況の可視化などにつなげることができます。

猫(や犬)を飼い始めた直後は、ペットがフードを残したり、下痢や嘔吐をしたり、なかには風邪症状になったりします。ペットとの同居開始直後は健康面やメンタル面でも相談事の多くなります。

また、順調に飼育していても今回のように手術の必要性などに気づかず、どう対処してよいのかわからないことも起こります。そこで管理会社にペット相談の窓口やマンション内に「飼い主の会」があれば、そこにペットの問題解決ができ、部屋の状況もわかるため、大事に至らず解決することができます。

この件では、どの時点から男性がビール缶をため込み始めたのかは特定できません。しかし、彼も可愛い猫のたわいもない話やフードのチョイスなどを気軽に話せる相手がいたら、保護団体に電話するよりずっとずっと以前、それほどひどくない状態の時に、誰かに気づいてもらえたのではと思います。

一方、管理する側も、飼育動物の様子を聞くことをきっかけに、住む人との関係を築ければ無理なく室内に立ち入る機会を作ることができるでしょう。

手間のかかることですが、「問題が起きる以前から、自発的に中を見せてもらえるようにする」「早期発見・早期対応がしやすくなり部屋のダメージなどのリスクを減らせる」ように運営体制を整えると、ペット可物件は一般の賃貸よりも賃貸中の室内の把握がしやすくなるのです。しかし、放置すればペット可住宅はトラブルの原因にもなります。

ペット可物件は空室対策になると同時に、住んでくれる方々とのよい関係を無理なく継続することができます。そして、そのことで物件の資産価値を損なうことを防ぐことにもつながります。ただし、それを維持するために少々のマンパワーと経費をかけることが求められます。

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この記事を書いた人

NPO法人東京キャットガーディアン 代表

東京都生まれ。2008年猫カフェスペースを設けた開放型シェルター(保護猫カフェ)を立ち上げ、2019年末までに7000頭以上の猫を里親に譲渡。住民が猫の預かりボランティアをする「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」を考案。「足りないのは愛情ではなくシステム」をモットーに保護猫活動を行っている。

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